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新潟地方裁判所 昭和31年(行)1号 判決

原告 木原徳一

被告 新潟県選挙管理委員会

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、「被告が昭和三十年十一月二日付にてなした西蒲原土地改良区総代選挙の第六区選挙区における選挙の効力並びに当選の効力に関する巻町選挙管理委員会の異議決定に対する訴願の裁決は取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として、

「原告は西蒲原土地改良区の組合員であつて、昭和三十年五月二十四日施行された同土地改良区総代選挙に際し、その第六区選挙区における選挙人であつた。ところが、右選挙区においては、燕市大字館野、竹田英夫及び同市同大字、梅田謙介の両名が選挙権を有しないに拘らず、偶々選挙人名簿に登載されていたのをさいわい投票するのを、選挙長が拒否せず投票せしめたものである。しかして右選挙区における当選人は六名で、その最下位当選人山田藤平の得票数は三十二票、次点者南波重雄の得票数は三十一票で、その得票差は僅かに一票に過ぎなかつた。従つて右選挙は選挙規定(土地改良法施行令第十四条、第十五条参照)に違反し、夫れが選挙の結果に異動を及ぼす虞ある場合に該当するから、選挙は無効である。仮りに選挙が無効でなくても、前記竹田英夫及び梅田謙介の投票は、いずれも選挙権を有しない者の投票として無効であるに拘らず有効投票に算入されその帰属が不明なものであつて、最下位当選人山田藤平と次点者南波重雄の当選順位に変動を及ぼす虞があるので、少くとも山田藤平の当選は無効である。以上の事由に基き原告は、昭和三十年五月二十七日巻町選挙管理委員会に対し、右選挙の効力並びに当選の効力に関し異議の申立をしたところ、同委員会は同年七月九日これが申立を棄却する決定をしたので、原告は更に同年八月二十五日右決定に対する訴願を被告に提起したところ、被告は同年十一月二日原告の訴願を棄却する旨の裁決をなし、原告は翌三日その裁決書の交付を受けた。よつて原告は被告の右裁決処分の取消を求めるものである。」と述べた。(立証省略)

被告は主文同旨の判決を求め、答弁として、「原告主張の事実中、原告が西蒲原土地改良区の組合員であつて、原告主張の選挙に際し、主張の選挙区における選挙人であつたこと、右選挙区において竹田英夫及び梅田謙介の両名が投票をなし、同人等は選挙人名簿に登載されていたものであること、右選挙区における当選人の数、最下位当選人山田藤平と次点者南波重雄の得票数等が原告主張のとおりであること、並びに原告が右選挙の効力に関し(当選の効力に関してではない)、その主張のように、巻町選挙管理委員会に異議の申立をなし、異議棄却の決定があつた後、更に被告に訴願を提起し、被告が訴願棄却の裁決をしたことは、いずれも認めるが、その余の事実は争う。本件においては原告主張のような選挙規定の違反はなく仮りにあつても選挙の結果に異動を及ぼす虞あるものではない、又当選の効力については元来異議の申立がないものであり、仮りに、異議申立があつたものと見るべきものとしても、前記両名は選挙権を有していたものでその投票は有効であり、そうでなくとも原告主張のように当選順位に影響をもたらすものではない(公職選挙法第二百九条の二参照)」と述べた。(立証省略)

理由

原告が西蒲原土地改良区の組合員であつて、原告主張の総代選挙に際し主張の選挙区における選挙人であつたこと、右選挙区において竹田英夫及び梅田謙介の両名が投票をなしたが、同人等は選挙人名簿に登載されていたものであること、右選挙区における当選人の数、最下位当選人と次点者の得票数等が原告主張のとおりであること、並びに原告が右選挙の効力に関し(当選の効力に関してではない)、その主張のように、巻町選挙管理委員会に異議の申立をなし、異議棄却の決定があつた後、更に被告に訴願を提起し、被告が訴願棄却の裁決をしたことは、いずれも当事者間に争がない。よつてまず選挙の効力について審按するに、前記竹田及び梅田の両名が選挙権を有しないものであつたかどうかのせんさくはおき、選挙長において右両名が選挙権を有しない者であることを認識しながらその者の投票を拒否しないで故意に投票せしめたというような事実は、成立に争なき甲第一号証や証人川島小三郎の証言によつてはこれを認めることができず、却つて、右証言と成立に争なき乙第五号証の一、二、同第六号証とをあわせ考えると、選挙当日選挙長川島小三郎は前記両名の組合員資格に格別疑義を差し挾まず選挙権を有する者と認めて投票せしめたものであり、しかも当時むしろかように認められる相当の理由、事情の存したことが窺われる。従つて、この点において既に、右選挙については、選挙の結果に影響を及ぼす虞あるような選挙規定の違反があつたものとは到底認め難い。

次に原告は右選挙の効力を争う一方、前記両名の投票をいわゆる潜在無効投票としてこれにより最下位当選人山田藤平の当選を争う趣旨で巻町選挙管理委員会に異議の申立をしたものである旨主張するが、成立に争なき乙第一号証(異議申立書)の記載に徴するも、右異議の申立がさような趣旨を含むものとは到底認め難いところであり、他にこの点につき異議申立を追加したような事跡も認め難い。(なお選挙の効力に関する異議等不服申立方法と当選の効力に関する夫れとは各別箇の手続をなすものとされることはいうをまたない。土地改良法施行令第二十七条等参照)従つて右当選の効力については異議申立の手続を経ないものというほかなく、その後の手続において右に関する不服申立を追加して主張することは本来許されないところといわなければならない。

然らば、本件選挙又は当選の効力を争い、被告のなした前記裁決の取消を求める原告の本訴請求は、爾余の点につき判断をするまでもなく、その理由がないものといわなければならない。よつて右請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 三和田大士 唐松寛 岡田光了)

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